住まいづくりのための設計事務所活用法

もくじ

◇このテキストの目的

 家づくりを依頼する相手先は、建て売り住宅やマンションを買う以外に、大きく分けて三つあります。ハウスメーカー、 工務店、そして設計事務所です。それぞれにメリット・デメリットがあり、相性もありますから、あなたにあったパートナーを見 つけることが最善です。ところで、この中でも特に設計事務所を知る機会はあまり多くはありません。そこで、どういったこと をしてくれるのか、費用はどれくらい必要なのか、どうやって探すのかなどについて紹介し、家づくりの参考に少しでも役だて ばということを目的としています。

 もちろん、ハウスメーカー、工務店、設計事務所のそれぞれの特長などは、あくまでも一般論 ですから、それにあてはまらない場合もありますので、注意してください。

◇それぞれの特徴と比較

1.ハウスメーカー

手間、時間をかけずにある水準の家を手に入れることができる。

2.工 務 店

日本では最も歴史がある設計・施工一貫システム。設計よりも施工のしやすさが優先されがち。                               

3.設計事務所

こだわり派むき。設計者の選定が難しい。

□ 比較表
ハウスメーカー
工務店
設計事務所
設計料 含まれる場合もある

料率は低い

工事費にふくまれる
工事費の8〜15%
設計者 営業マンが窓口 会社の設計者 建築家とそのスタッフ
要望への対応 標準設計が基本 伝統的な家の形 設計力やデザインが売り
工期 短期間

工程管理に優れる

比較的短い 一年程度は必要
敷地条件 制約有り 条件に合わせるが手間をかけない 条件に合わせる
工事監理 会社の施工部門 設計・施工一貫 建て主の立場で監理する
工事費 見積りしやすい 他社との比較がしにくい 比較して調べる

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◇設計監理料

 一般に工事費の8〜15%といわれ高いものと思われがちです。業者によっては設計監理料が極端に安かったり、サービスするというところもありますが、こうしたところも設計士を雇用している以上全く無料でできる訳ではなく、工事費に上乗せされているか、経費などの項目に含まれているとみるのが妥当でしょう。設計の内容も設計事務所と建設業設計部とでは大きく異なります。また、ハウスメーカーでは、設計料は安くても営業経費の占める割合が大きくなります。設計事務所に依頼するときは設計だけではなく監理も重要です。

◇設計と施工の分離原則

 建主の意向に沿って専門家として設計し、見積りの当否を確かめ、注文通りに施工されているかを監理するのが建築士法に定められた建築士の役割です。これは、業者に雇用されている建築士についても同じことなのですが、実際は業者の利益や意向に反してまで建主のサイドに徹するのは難しく、このことを原因とするトラブルやまた、欠陥を生じる例も見られます。

 海外では、設計と施工請負ははっきりと分離していて、請負者が設計・施工を一貫してやるということはほとんどありません。日本では昔から大工の棟梁が設計も施工も一貫してやっていた伝統があり、世界でも特異な存在となっています。

◇なにをしてくれるのか

 設計事務所の実務内容は主に以下のとおりです。これ以外にも税理士や土地家屋調査士、経営コンサルタントといった専門家の協力を得てあらゆるケースに対応しています。

□ 設計の実務概要
項目
内容
成果品
1.調査 敷地の法的規制、道路との関係、インフラ等の調査

構造設計に必要なデータ

敷地調査書

地質調査書

2.設計条件の整理 家族構成、予算、必要な機能、要望等設計条件の整理 与条件検討書
3.企画 土地の有効利用、事業計画提案 企画書
4.資金計画 税金及び手続き費用を含めた総予算の概要と公的資金導入などの資金計画、説税対策の検討 資金計画書
5.基本計画 設計の基本的な事柄の提案

納得のいくまで検討

基本計画書
6.基本設計 設計の基本方針の決定、まとめ 基本設計書

概算見積り

7.実施設計 工事用図面、詳細図 施工に必要な全ての図面
8.許認可 開発申請、確認申請等の各手続き 各申請図書
9.現場説明 見積りに必要な事柄を、現場を業者に見せて説明 見積り要項書
10.近隣説明 ご近所に設計概要を説明 設計説明書
11.工事監理 設計図や契約書通りに施工されているかチェック。検査や打ち合わせを行う 監理報告書
12.各種計画 内外装仕上げ材や、照明、外構、家具配置等をサンプルや模型などを用いて検討、提案  各種計画書

カラースキム

13.その他 必要となる様々な検討 報告書、検討書

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◇設計事務所を使うと損か得か

 雇う側の価値観やケースにもよりますが、上手に使えば得になります。たとえば、設計監理料の分出費が増えると見れば損ということになります。しかし、見積書の内容が適正かどうか査定し、設計・施工の見積りを鵜呑みにした金額より安くなれば得ということになります。

 品質の面からみれば、施工者は見積書の金額よりも安く施工しその差額が利益になります。もちろん、契約書や仕様書を勝手に変更して施工することは許されません。ところが、専門知識のない施主が検査などでこうしたことをチェックすることは難しく、そのために手抜き工事や、紛争の原因になることがあります。こうなることに比べまた、安心も得られれば得になります。

◇設計事務所もピンからキリまで

 設計事務所は数も種類も沢山ありますが全てがよい事務所とは限りません。悪い事務所に依頼するとお金の無駄であるだけでなくトラブルの原因にもなります。だからといってよい事務所というのは必ずしも大きな組織であるということではなく、3〜4人の小さな事務所であってもしっかりした哲学を持つよい事務所もたくさんあります。これは、設計という作業が大人数でよってたかってやる仕事に向いていないからで、組織事務所も実際は小人数のチーム単位で仕事をしています。

 住宅を依頼するのに向いているかどうかも大切です。構造事務所や設備事務所、許認可の申請のみを行う事務所やビルや商業施設ばかりを設計している事務所も向いているとは思えません。住宅設計は利益になりくいため嫌うところもあります。小さな事務所であってもに意欲的なところがよいでしょう。

◇設計事務所はなぜ知られてないか

 一般に設計事務所の存在はあまり知られていません。ましてやなんのためにあるのか変に誤解している人も少なくありません。今後は変わっていくかもしれませんが、単に知る機会が少ないというだけのことです。しかし、理由もあります。たとえば、どんな大きな事務所であっても雑誌や、一部の新聞記事以外にそれも広告という形で私たちが眼にするということはまずありません。これは、医者や弁護士などと同じように建築家という職能が単なる利益追究や、売名行為を許さない倫理感を必要とされているからです。また、こうしたことのせいか営業の上手さと建物の質とは反比例すると見る向きもあります。

◇設計者の選び方

 知り合いがいるというなら結構ですが、どうやって気に入った設計者を探すかということは一番の難問です。雑誌などで設計者をリストアップし、建物を見るだけでなく実際に会って相談して見るのが最も良い方法でしょう。会えばすぐに契約をというわけではありませんし、人には相性というのがありますから納得のいくまで時間をかけることが大切です。また、設計者のつくる会や設計者を紹介する機関もありますから利用してみるのもよいでしょう。

◇設計者とのつき合い方・利用法

 設計者といえど万能ではありません。それぞれに得意分野もあります。たとえば構造設計が専門の人もいますし、意匠設計が専門の人もいます。これらを見極めて設計者をうまく利用するのが、利口な施主といえます。特に気をつけたいのは意匠設計が専門の人の中にはとかく奇抜な建物を設計したがる(奇抜なものをよいと思っている)設計者がいるということをわすれないでください。あなたがそういう家を建てたければ問題はありませんが、おそらくは住み難い家になることでしょう。もし、気に入らなければ(相性が悪ければ)気にせず別の設計者に頼むとよいでしょう。

 また、設計者は家のデザインや構造などには詳しいですが、使用される材料にはあまり詳しくない場合があります。デザイン性を重視するあまり、材料の善し悪しを軽んじたりすることもままあります。先日あるモデルルームに行ってフロアを見たのですが、無垢のナラのフロアを使用した部屋からベニヤ板に薄いナラのロータリー単板を貼り着色塗装したもの(普及品のフロア)を使用した部屋へ入ったときにはあまりの違いに驚きました。普及品のフロアはまるで絵の具で描いたのかと思うような印象で、とてもフロアが使用されているという感じではなかったのが素人目にもわかりました。ところがある設計者にこの話をしたら、着色塗装した普及品の方が安いし、部屋のデザイン上もカラーが統一できるからいいといっていました。もちろん、そのような考え方もあります。どちらがよいとは一概にはいえません。でもその人は少なくとも無垢のナラのフロアと普及品のフロアとの区別がわからないようでした。現場を重視しない設計者によくあることのようです。図面がすべてではありませんから、ぜひとも注意してください。

 家を建てるのはあなた自身なのです。気にくわなければはっきりと言ってください。設計者は後悔しませんが、住む人は何年も何十年も後悔するのですから。